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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)3410号 判決 1991年8月12日

原告

久保鏡子

ほか三名

被告

中川清人

主文

一  被告は、原告久保鏡子に対し金一四三万〇八五九円、その余の原告らに対しそれぞれ金二九八万一七五八円及びこれらに対するいずれも平成二年三月七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告久保鏡子に対し一七九八万五九四二円、その余の原告らに対しそれぞれ五九九万五三一四円及びこれらに対するいずれも平成二年三月七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが左記一1の交通事故の発生を理由に、被告に対し自賠法三条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  本件交通事故

(一) 日時 平成二年三月七日午後七時四五分ころ

(二) 場所 愛知県春日井市石尾台一丁目二番地先道路上

(三) 加害車 被告運転の普通貨物自動車

(四) 被害者 久保外士夫

(五) 態様 飲酒した被告運転の加害車が横断歩道上を横断中の被害者に衝突し、死亡させた(甲二)。

2  責任原因

被告は、加害車を自己の運行の用に供する者である(自賠法三条)。

3  相続関係等

原告久保鏡子は被害者の妻で、その余の原告らはいずれも同原告と被害者の子であり、相続人は原告らのみである。また被害者は本件事故当時六四歳であつた(甲二五ないし甲三二)。

4  損害の填補

原告らは、本件事故による損害の填補として地方公務員等共済組合法による遺族年金のほかに合計一八八九万八〇六〇円を受領した。

二  争点

原告らは、被害者には本件事故当時労働の能力と意思があつたから、その死亡による逸失利益は、事故後就労可能な七年間は賃金センサスによる平均賃金に基づき、その後本件事故当時の平均余命に達するまでの九年間は被害者の受給していた地方公務員等共済組合法による退職年金額に基づいて算定すべきであると主張している。

被告は、右の点を含め損害額を争つている。

第三争点に対する判断

一  被害者の損害

1  治療費(請求も同額) 二七万六一四〇円

甲五、証人久保達哉によれば右金額を認めることができる。

2  入院雑費(請求一二〇〇円) 認められない。

被害者は平成二年三月七日午後七時四五分ころ本件事故に遭遇(争いがない)したが、甲四、甲六によれば、名古屋徳州会病院に搬送されたときは心肺機能が停止した状態で、一時間余り後の午後九時一分同病院で死亡したものであるから、格別の入院雑費を必要とする事情があつたとは認められない。

3  逸失利益(請求三五六四万四二一七円) 二五五七万五七七六円

(一) 年金受給権喪失による損害

甲七、甲三三、証人久保達哉によれば、被害者は、本件事故の当時地方公務員等共済組合法による退職年金として年額三〇八万二三〇〇円を受給していたが、本件事故で死亡して右年金受給権を喪失したと認められる。

したがつて特段の事情のない本件では、被害者は、平均余命に相当する期間のうべかりし右年金受給額に相当する損害を被つたものと考えるべきである。被害者は本件事故当時六四歳であつたから(争いがない)、昭和六三年簡易生命表によればその平均余命は一六年間(一年未満切捨て)で、これに対応する新ホフマン係数は一一・五三六三である。

(二) 被害者の労働能力及び労働の意思等

甲三三、証人久保達哉によれば、被害者は、旧制師範学校を卒業後、六〇歳まで小中学校の教員をし、退職後は昭和六二年三月まで産休補助の代用教員をしていた者であるが、その後本件事故発生までボランテイアで美術館の説明員などをしていたところ、平成二年五月過ぎ以降小中学生を対象とした学習塾を開設する計画を持ち、塾開設の場所を決定していたことが認められる。

右事実によれば、被害者は、本件事故当時一応労働の能力と意思を有していたと認められるから、前示平均余命一六年間のうち労働可能であつたと認められる七年間(これに対応する新ホフマン係数は五・八七四三)については、前示年金額に右の事実を加味して逸失利益算定の基礎となる収入を推認すべきところ、前示のとおり被害者が本件事故当時年金によつて生活しており、証人久保達哉は被害者が当分の間ボランテイア活動を続ける見通しであつた旨証言していることなどに照らすと、右期間の基礎収入は控え目に見積もるべきであるから、これを平成元年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧大新大卒の六〇歳ないし六四歳の男子労働者の平均年間給与額七一四万二五〇〇円の六割である四二八万五五〇〇円と推認するのが相当である。

(三) 以上によれば、被害者の死亡による逸失利益は、算定の基礎となる収入額を本件事故後七年間は年額四二八万五五〇〇円、その後九年間は年額三〇八万二三〇〇円とし、生活費控除の割合を四割として、次のとおり二五五七万五七七六円となる。

4,285,500×(1-0.4)×5.8743+3,082,300×(1-0.4)×(11.5363-5.8743)=25,575,776

4  慰謝料(請求二四〇一万円) 二二〇〇万円

本件事故態様(被告が飲酒のうえ一方的過失に基づき事故を惹起)、結果、被害者の年齢、被害者の家族構成(妻と子供三人、そのうち一人はまだ大学生である)等諸般の事情を考慮すると、同人の死亡に対する慰謝料は名古屋徳州会病院での治療の間の分を含め右金額をもつて相当と認める。

二  原告らの損害

1  葬儀費(請求二五〇万六三一九円) 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては右金額をもつて相当と認める。

2  文書料(請求も同額) 四二〇〇円

甲一、甲二五ないし甲三二、弁論の全趣旨によれば、原告らは、本訴提起のため交通事故証明書、除籍謄本、戸籍謄本等の交付を受け、その費用として右金額を支出したことが認められる。

三  相続関係等

以上の損害額は、被害者自身の損害が合計四七八五万一九一六円、原告らの損害が合計一〇〇万四二〇〇円で併せて四八八五万六一一六円であるところ、前示争いのない相続関係及び弁論の全趣旨によれば、被害者の損害賠償請求権については、原告久保鏡子がその二分の一を、その余の原告らがそれぞれその六分の一を承継し、また右原告らの損害は、原告らがそれぞれ右割合に従つて支出していると認められるから、これらによれば、原告らの損害額は、原告久保鏡子が二四四二万八〇五八円、その余の原告らがそれぞれ八一四万二六八六円となる。

四  損害の填補

(一)  遺族年金による損害の填補

甲八、甲三三によれば、原告久保鏡子は、本件事故での被害者の死亡により地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金として年額一七七万八九〇〇円を受給するようになつたことが認められるので、同原告が賠償を受けうべき損害額から前示一3(一)の被害者の平均余命相当期間である一六年間の右遺族年金受給額を控除すべきところ、これを本件事故当時の現価に引き直すと次のとおり二〇五二万一九二四円となり、この金額を右三の同原告の損害額から控除すると三九〇万六一三四円となる。

1,778,900×11.5363=20,521,924

(二)  その他の損害の填補

原告らが本件事故による損害の填補として、地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金以外に合計一八八九万八〇六〇円を受領していることは当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば、原告らは右金額を、この段階での各原告の損害残額(原告久保鏡子三九〇万六一三四円、その余の原告各八一四万二六八六円)の割合で分配しているものと推認されるから、右損害填補による原告各自の受領額は、原告久保鏡子が二六〇万五二七五円、その余の原告らがそれぞれ五四三万〇九二八円であると認められる。

3,906,134+8,142,686×3=28,334,192

18,898,060×3,906,134/28,334,192=2,605,275

18,898,060×8,142,686/28,334,192=5,430,928

(三)  よつて前記三の各損害額から右(一)(二)の各金額を控除すると残額は、原告久保鏡子が一三〇万〇八五九円、その余の原告らがそれぞれ二七一万一七五八円となる。

五  弁護士費用(請求合計二五〇万円)

事案の性質、認容額等を考慮すると本件事故と相当因果関係のある金額としては、原告久保鏡子につき一三万円、その余の原告らにつきそれぞれ二七万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上の次第で、原告らの請求は、被告に対し、原告久保鏡子が一四三万〇八五九円、その余の原告らがそれぞれ二九八万一七五八円及びこれらに対するいずれも本件事故の日である平成二年三月七日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 夏目明德)

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